事業承継 〜自分が事務所を継いだときのこと〜

私の事業承継は、こんな経緯でした。

今からおよそ18年前、税理士であった母が胆嚢癌で緊急入院、手術で胆嚢は摘出したものの、どこかに転移する可能性が高いとお医者さんに言われました。母が入院している間、私は4年ほど勤務していた会計事務所を退職して母を手伝うことにしました。それについて、当時は母は何も言わなかったのですが、2ヶ月ほどで退院して体調が戻ってから母が私に「お前にやってもらう仕事がそんなにあるわけでもないし、遊ばれても困るのでちゃんとまた就職しなさい。」と言いました。税理士を目指したきっかけは母の仕事に魅力を感じたからなのですが、方や事務所を継ぐ事に関しては母も私も全くその気がなく、私自身は都心の事務所に就職することを強く熱望していました。また、病気について母には本当の病名を告知していなかったので、無理に自分が事務所を手伝うことで、要らぬ心配をさせてもいけないので、知人の紹介で他の会計事務所に就職することになりました。


 そして1年後、癌が再発し再び手術をしたのですが、残念ながら母は帰らぬ人となってしまいました。(父はその3年前に既に他界しております。) 私はその時勤めていた事務所を退職して、母の事務所を継ぐ事に決めたのです。勤めていた事務所には大変迷惑を掛けてしまいましたが、そこの先生が大変すばらしい先生で、今でも月に何回かは仕事をさせてもらったり、事務所の食事会に誘われたりしています。


 いつかは母の事務所を継ぐ時がくるかもしれないと心の片隅にはあったものの、まさかこんなに早く来るとは思っても見ませんでした。突然やって来た事業承継に、全く仕事の引継ぎをしていなかった私が、果たしてお客様に対して今までの様に十分なサービスを提供できるかは非常に不安がありました。幸いにも、私自身に会計事務所の実務経験が5年ほどあったことや、当時の事務所の従業員、お客様、相談に乗っていただいた税理士の先生の御支援があって、契約解除やトラブル等もなく無事に事業を承継する事ができました。


 そして何よりも感謝したいことは、仕事さえ一緒にしたことはなかったですが、時々母が自分の仕事に対する思い(今で考えれば経営理念のようなものかもしれません。当時は経営理念がどういうものか知らなかったです。)を話してくれたことと、私自身にとても魅力ある仕事だと思わせてくれたことです。今現在も私は税理士と言う仕事に非常に魅力を感じていますし、将来も多分その気持ちは変わらないと思います。 ただ、母が残してくれた経営理念を完全に受け継ぐのは、まだまだ自分自身に未熟な部分が多々あると思います。


 簡単ではありますが、私自身の事業承継はこんな感じでした。 次回は、中小企業が事業承継をするにあたっての先代経営者の誤解と後継者とのすれ違いについて、私から見たお話をしたいと思います。